新規事業に必要な成長痛とは?挑戦する組織風土醸成にむけて"安全に失敗できる”場をユニーリサーチが提供
1910年創業、世界に32万人のグループ従業員を擁する日立製作所は、現在成長戦略の核に「Lumada(ルマーダ)」を掲げています。「Lumada」とは、“Illuminate(照らす・解明する・輝かせる)”と“Data(データ)”を組み合わせた造語であり、「お客さまのデータに光をあて、輝かせることで、新たな知見を引き出し、お客さまの経営課題の解決や事業の成長に貢献していく」という方針が示されています。また「Lumada」は、OT(制御・運用技術)、IT(情報技術)、プロダクトなどグループ内で培われた異なる強みのアセットを繋ぐことでイノベーションの種を育てるためのビジネスモデルでもあります。
既存事業の延長とは異なる価値創出を目指す同社では、新たなチャレンジの形である「Lumada」を旗印に顧客協創や新規事業創出にも積極的に取り組んでいます。今回はそれぞれ新規事業立上げに取り組む傍ら、社内ビジネスコンテスト開催に向けて準備を進める金融ビジネスユニット戦略本部Lumada事業統括部の大野美佳さん、土屋亮平さん、堀光孝さんにユニーリサーチ導入の目的やメリットなどをお伺いしました。
※本記事の内容は取材日2023年7月25日時点のものとなっています
全世界で32万人を要する日立グループ 「Lumada」を旗印にイノベーションを促進
金融ビジネスユニット戦略本部Lumada事業統括部 大野美佳さん― まずは御社事業と、「Lumada」について教えてください。
大野さん: 日立製作所は、110年以上の歴史において「優れた自社技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」ことを企業理念とし、社会インフラを支える技術・製品の開発に力を入れてきました。連結子会社は696社、全世界で約32万人のグループ従業員がおり、事業領域は多岐に渡っています。私たちが所属するのは、金融ビジネスユニットです。金融機関様向けの基幹システムの開発・提供を主なビジネスとしている部署ですが、2016年に立ち上げた「Lumada」を背景に新規事業への取り組みも加速しています。
この「Lumada」とは、“Illuminate(照らす・解明する・輝かせる)”と“Data(データ)”を組み合わせた造語です。日立グループが培ってきたOT、IT、そして技術やデータへの知見を融合させることで、社会課題解決に繋がる新たな価値提供に挑戦するという想いが込められており、「Lumada」はグループ横断での“旗印”となっています。
堀さん: 目まぐるしく変化し予測がつかないVUCAの時代を迎える中、次の事業の柱となり得るイノベーションの種を育てたいという考えのもと、金融ビジネスユニット内でも新規事業開発を進めています。私たち3人もそれぞれが事業テーマを持ちながら、ユニット全体に新規事業挑戦の風土を広げるべく、社内ビジネスコンテスト事務局を兼務しコンテストの開催準備を進めている最中です。
過去の失敗から得た教訓 ユーザーの生声を聞き、顔を思い浮かべられるまで
― ご自身の新規事業開発場面でユニーリサーチを利用いただき、開催を予定している社内ビジネスコンテストでも導入予定とのこと、大変嬉しく思います。ユーザーリサーチの実施を後押しされる理由を、教えていただけますか?
大野さん: 私自身、新規事業を世に出せなかった悔しい経験が、過去にあります。
失敗してしまった最大の要因は、エンドユーザーの声を深く聞けていなかったこと。ビジネスアイディアを構想し、ビジネスパートナーとなる金融機関様にも賛同をいただいていました。金融機関様とは顧客協創を進める中で議論を重ねていたので、ニーズは満たせていたのだと思います。しかし、実際にサービスを使うエンドユーザーの声を十分に集めることができていませんでした。どんな人がいて、どんな課題を抱えているかの理解が不十分だったため、いざ価格や提供方法など、具体的な話になると、うまく進まないことが多く、結果、自ら撤退判断をする形となってしまいました。
反省を活かし、現在進めている新規事業案ではユニーリサーチを活用しています。ユーザーリサーチを通して思うのは、困っている人の顔をバイネームで思い浮かべることができなければダメだ、ということです。逆に、「この人を助けたい!」と思える人が一人でもいれば、アイディアの解像度はどんどん高められることにも気づきました。
起案者が想いや仮説を持つことはとても大事です。でも、想像上のユーザーではなく、実際に仮説が合っているのかを確かめにいくバランス感覚が必要。自分自身が得た反省から、コンテストの起案者にはぜひ、ユーザーリサーチを行って、事業アイディアを磨いていただきたいなと考えています。
金融ビジネスユニット戦略本部Lumada事業統括部 土屋亮平さん
土屋さん: 新規事業って、一歩進んで二歩下がるということの繰り返しだと思います。振り出しに戻ることもあります。それでも、勇気を持って走らなければならない。そのうえで、実施するアクションがデスクトップリサーチだけだと、漠然としたイメージしか掴めなかったり、そのイメージすら思うように膨らまないということも多いと思います。これでは事業検討が進みませんし的外れなこともある。ユニーリサーチを活用するなり、自分で直接アポイントをとる形でもよいと思いますが、顧客候補やそのステークホルダーに対するアクションが新規事業検討を前進させるために重要と考えています。
― ありがとうございます。ユニーリサーチを最初に知った時にはどんな印象でしたか?
大野さん: ユニーリサーチは、ビジネスコンテストを開催されている他社の担当者様に紹介いただきました。シンプルに「なんで、こういうのなかったのだろう!」と、思いました。
ユニーリサーチ導入前から有識者特化のインタビューサービスを使っていたのですが、気軽に聞けるコスト感ではなかったので、慎重に進める必要がありました。また、社内など機縁でインタビュー先を探す方法もありますが、普段自分たちが出会えない、できる限りユーザー像に近い一般の方に話を聞く手段はないのだろうか…と思っていました。
ユニーリサーチはコスト面や対象者探しの面でとてもマッチしているので、すぐに利用しようと思いました。
金融ビジネスユニット戦略本部Lumada事業統括部 堀光孝さん
堀さん: 事業検討を進める中では、アドバイザーからも「現場に行ってください」とよく言われます。ただ、わかってはいても、実際にはフットワークが軽い人ばかりではありません。リスクや不安を考えると心配で動けなくなってしまう人もいるので、ビジネスコンテストではそうした不安を払拭してあげたいなと思っていました。ユニーリサーチを知ったのは、ちょうどその点に困っていたところだったので、ドンピシャでタイミングが良かったのを覚えています。
募集翌日にはインタビューできるスピード感と手軽さが、リサーチのハードルを引き下げる
― ご利用いただく中でメリットに感じているポイントがあれば教えてください。
大野さん: コストを抑えながら手軽にユーザーインタビューできることは、とても大きなメリットだと思います。
聞いてみないとわからない、というのは身をもって体験しました。こうだろうと仮説を立てて、聞いたら全然違ったということは実際に何度もあります。私は新規事業だけでなく、既存事業でもユーザーインタビューの文化が広がればいいなと思っています。既存事業では、クライアントの依頼に対して期待以上の高品質でお応えすることを目標にしていますが、その先のエンドユーザーがどんな課題を抱えているのかの情報は、クライアントにとっても嬉しいはずです。その本質の部分を捉えた提案ができれば、提供価値が高まってくるので当社に対するご信頼をさらにいただけるのではないかと考えています。
ユーザーリサーチが広まれば、金融ビジネスユニットの組織全体が大きく変わっていくと思います。そのためには最初のハードルが低いことが大切です。
土屋さん: 対象者募集時点で、反応が数字で確認できることも便利だと思います。確認したい課題の認知度や顧客の母数を類推するための一つの参考指標にもなると思います。
そして募集ページを見ると日々多くの新規インタビュー募集が追加されていますよね。「行動しているのは自分だけじゃない!」とユニーリサーチ仲間に勇気づけられています。
堀さん: ユニーリサーチには、募集翌日にはインタビューを実施できるくらいのスピード感があります。事実確認をクイックにできるのは、本当に便利です。以前はインタビューをしようと思ったら、準備に週次単位もしくは月次単位でかかることもありました。それに比べたら非常にスピーディーですよね。
新規事業においては、インタビューするまでいくら頭の中で考えてもわからないことが多いので、さっさと聞いたらいい。それを実現できるのが素晴らしいと思いますし、ビジネスコンテスト事務局としても、選択肢の一つとして気軽に紹介できてありがたいです。
スピード感や気軽さにメリットがあるユニーリサーチと、より専門的な話を聞ける有識者インタビューとを組み合わせることで、リサーチの質はより高められると思います。
― 具体的に、有識者インタビューとユニーリサーチでのインタビューは、どのように使い分けているのでしょうか?
堀さん: 事業アイディアが固まっていない段階で有識者にインタビューしても、ふんわりした回答しか得られません。コストもかかるので、できるだけ有意義な時間とするため、事前にユニーリサーチを使って、有識者に聞くべきキーワードやトピックスを発見しています。
私の場合は、ユーザーに「どこに困っている?」という仮説検証の部分を聞きました。生の声からファクトを集め、そこからさらに聞きたいキーワードの解像度を絞り込んでいきます。たとえば金融関連のテーマであれば、「ファイナンス」より「オンラインレンディング」の方が具体的ですよね。有識者インタビューでは、そのキーワードが語られる時にはどんなビジネスプレイヤーがいて、どんなトピックスがあるのか?などさらに深掘りします。課題感を見極めた上で聞くことができれば、有識者インタビューで質の高い回答を得られると思います。
挑戦する組織風土の醸成に向けて、ファーストステップを刻むためのユニーリサーチ
― ありがとうございます。最後に、今後の展望について教えてください。
大野さん: ユニーリサーチについては、まずはビジネスコンテストや新規事業を推進中のチームなど、いろんな方に使ってもらいたいです。気軽にインタビューできるので、対象者探しに苦労している担当者に積極的に紹介できればと思います。すでに複数チームから、サービスを利用したいと相談をもらっている状況です。
実際には、新規事業が金融ビジネスユニットにインパクトをもたらす成長を遂げるには少し時間がかかるかと思います。しかし、ビジネスコンテストを通して、内に秘めた想いを持つ人を引き上げて、活動をしているうちに熱意が爆発するようなことを仕掛けていきたい。そういう方を表に出して、その人に影響された人が次々に現れて「金融ビジネスユニットって何か変わったよね」と言われるようになったら嬉しいですね。
土屋さん: ビジネスコンテスト事務局としては、「まず動いてみましょう」という雰囲気を作っていきたい。それをサポートしてくれるのが、ユニーリサーチだと思います。思い立ったらその場で募集してみて、翌日にインタビューできる。このような考えや手段は今までになかったものです。また、ユニーリサーチはリーン開発と非常に相性の良いツールと感じています。現在自身で検討している事業について、クイックに仮説検証を実施し、事業としての見極めや成功確度を高めていきたい。自分が先駆けとなって実績を作り、自分自身の経験を持って事務局支援ができるような活動をしていきたいですね。
堀さん: 新規事業を進める上で、自分の仮説がポキポキと折られていく辛い経験は避けて通ることができないと思います。
立ち上げ経験のある方は皆、「最初に考えた案は通らない」と言います。しかし、考えている時はいけると思いがち。インタビューして初めてポキっとおられるのです。
成長には必要な痛みなので、無理にでもきっかけを作ることには意味があると思います。本当に困っている人に向けて「事業でなんとか解決したい」という、身命を賭してやりたいと思えるような経験を得られれば、事業解像度が上がって自分自身の考え方や動き方も確実に変わります。
事務局としてできるのは、経験のためのハードルを下げたり、安全に失敗できる場を用意することだと思います。組織全体が事業創出におけるプロセスを体得することで、挑戦する風土の醸成にも繋がるという期待感があります。ユニーリサーチは、そのファーストステップを刻むためのサービスとして今後も活用していければと思います。