ほんの数日で完了する生活者との「対話」が、考えもしなかったワクワクをつくる -クリエイティブエージェンシー kiCkがAIインタビューに見た可能性-
株式会社kiCkは、クリエイティブを強みに、ブランドや事業の戦略設計から広告コミュニケーションの実行までを社内で一気通貫で手がけ、大手企業からスタートアップまで100社以上を支援してきました。
同社の提案やワークショップの土台には、いつも生活者の声があります。その声を集める武器の一つが、ユニーリサーチです。オンラインインタビューでの活用に加え、正式リリースに先駆けて「AIインタビュー」もトライアル。募集からたった2日間で、AIが20名弱の定性インタビューを同時並行で完了させ、得られた声はそのまま提案の論拠になりました。
今回は、CIO/シニア・ストラテジストの長井さん、チーフクリエイティブプロデューサーの早川さん、クリエイティブプロデューサーの見角さんに、ユニーリサーチが提案をどう変えたのかを伺いました。
※本記事の内容は取材日2026年6月22日時点のものです。
戦略からアウトプットまで、同じチームが最後まで担う
― まず、kiCkはどんな会社ですか?
早川さん: kiCkは、今年で14期目になります。僕たちが掲げるパーパス「GET YOUR KICKS! ワクワクで世界を変えていく。」には、まず自分たちがワクワクすること、そしてそのワクワクを原動力に前例や常識を飛び越え、お客様の事業も、その先にいる生活者の毎日も変えていきたい、という思いを込めています。
社内には戦略、クリエイティブ、プロデュース、制作と、企画から実行までの機能が揃っていて、全員がクリエイティブに熱を持って向き合っているのが最大の強みです。大きな方向性を考えるところからアウトプットまでを同じチームが担うので、戦略とアウトプットの間に分断が起きません。これは、そう多くのエージェンシーにできることではないと思いますね。
チーフクリエイティブプロデューサー 早川 高史さん― クリエイティブの企業が、事業の上流まで手がけるのは、なぜですか?
長井さん: クリエイティブを本気でやろうとするほど、その手前にある事業やブランドの本質を理解する必要が出てきます。ブランドの向きが本来と違っていては、どれだけコミュニケーションを重ねてもうまくいきません。頼まれてもいないのに上流の提案を何度もしているうちに、戦略やブランドのコンサルティング、新規事業の伴走といった、上流からのお手伝いが増えてきました。最近は「まず、そこから見直しましょう」と、企業のコアに近い部分のご相談を早い段階でいただくことも多くなっています。
CIO/シニア・ストラテジスト 長井 宏介さん製品データは山ほどある。でも「あなたにとってこのブランドは何か」を紐解く情報がなかった
― ユニーリサーチを使い始めたきっかけを教えてください。
長井さん: お付き合いのあるコンサルティング会社の方から「一般の人の声を素早く集めるならユニーリサーチ」と教えてもらったのが最初です。アンケート調査とかグループインタビューって、準備がとにかく面倒なイメージがあったので、そんなツールがあるのかと驚きました。
早川さん: そのすぐ後に、お客様から、ブランドを見直すワークショップのご相談をいただきました。話を聞いてみると、製品評価などの調査データは十分に蓄積されている。ところが、ユーザーがこの商品をどう思っているのか、何を気に入ってくれているのか、なぜ選んでいるのか、つまり「あなたにとってこのブランドは何ですか」を紐解く情報がありませんでした。ユーザー像が見えなければアイデアにならないし、お客様とすり合っていなければ提案も刺さらない。それなら直接聞いてみよう、というのが、最初の活用でしたね。
長井さん: その土台がないままワークショップを開いても、メーカーの想いを一方的に語るだけで、ディスカッションになりません。そこでユニーリサーチで募集をかけると、あっという間に同社製品のユーザーが集まりました。
集まった方々に、ZoomやGoogle Meetで僕たち自身がインタビューし、様々な気づきや発見についてクライアントにお話しすると、思い込みとのズレに気づかされる場面が多々あったり、見えていなかった商品の価値に自信を持てるようになった、と感謝されました。
丸1週間、オンラインとはいえ、1日に3〜4件のインタビューをこなす日が続いて結構疲れましたが、間違いなくやって良かったと思っています。
― そのワークショップは、どんなものなのでしょうか?
長井さん: 当社ではいろんなワークショップをやるんですが、その一つにビジネスコンセプト・ダイアグラムというものがあります。これは、ブランドロイヤルティを上げていくための「地図」を、参加者全員で描いていくというワークです。ブランドが対面するお客様には、ロイヤルユーザーもいれば、その候補になる人、あるいは絶対に動かない人もいる。それぞれが今どのステージにいて、どうすれば最終的にロイヤルユーザーになってもらえるのかを、脳みそにたくさん汗をかきながら作り上げていきます。
そして、全員が同じ地図を見られるようになると、ブランドはどうコミュニケーションすべきか、誰にどんなことを知ってもらえば価値が伝わるのかが見えてくるんです。
北海道から沖縄まで、1週間で。昔のグループインタビューには戻れない
― 従来の調査と比べて、何が変わりましたか?
早川さん: まず期間です。調査会社に依頼する対面のグループインタビューでは、企画を思いついてから完了まで2ヶ月ほどかかっていました。ユニーリサーチなら、企画から完了まで1週間ほどで終わります。準備をして、パネルを集めて、会場を押さえて、クライアントと日程を調整して、と考えると、労力は10分の1どころではありません。コストも相当抑えられています。もはや別物で、比べる次元にないというのが正直なところです。昔のグループインタビューには、もう戻らないと思いますね。
見角さん: もう一つは、自分たちで設計できることです。以前は調査会社が作った質問票に納得がいかないこともありました。今は、うまくいくもいかないも自分たち次第。それに、以前は東京近郊にお住まいの方の声しか聞けませんでしたが、今は北海道から沖縄まで、日本中の声が聞ける。県ごとの傾向の違いまで見えてきます。個人情報を自社で取得しなくていいのも助かります。個人情報の管理は、企業がリサーチに手を出しにくい理由の一つですから。
クリエイティブプロデューサー 見角 大翔さん早川さん: オンラインのグループインタビューと比べても、10人で100万円ほどかかっていました。それが、ユニーリサーチを使えば毎回の提案で使える金額感になる。コストと時間を理由に諦めていた調査が、提案のたびにできるようになったのは大きな変化ですね。
AIが相手でも、人はこれほど丁寧に答えてくれる
― 正式リリースに先駆けてAIインタビューを試されました。どんな案件で使ったのですか?
見角さん: とあるヘアケアブランドの案件です。ロングセラーであるがゆえに、クライアントは「もう高年齢層のブランドになってしまっている」と思い込んでいました。SNSで探してもユーザーの声がほとんど出てこないので、想像どおりなのかもしれない。それでも、あえて若い世代でこのブランドを使っている人の声を聞きたいと考えました。
実在する調査モニタへのインタビューをAIが代行するAIインタビュー― 実際に使ってみて、いかがでしたか?
見角さん: 一番驚いたのは、アニメーションのAIインタビュアーが相手でも、回答者の皆さんがきちんと話してくれることです。すごく丁寧に、顔を出して答えてくださっている。実際の動画を見て、これだけ答えてくれるなら十分だと確信しました。人間がインタビューしたときと同じ感覚で受け取れます。
長井さん: スクリーニング条件は厳しめでしたが、2日間の募集で17名が集まりました。設問はラフ案を作ってから磨き込み、深掘りは3回に設定。事前に自分が回答者になって試してみたのですが、AIが回答に応じて的確に掘ってくる。僕はこれまでユーザーインタビューの経験を積んできて、深掘りには自信がありました。この精度で質問されると、僕のちょっとした特技は、今後いらないスキルになるかもしれません。
もっとも、本当に深いところを聞き出す部分や、インタビューの設計そのものは、まだ人間の腕が試される領域です。逆に言えば、作業になりがちな実査の部分は大幅にコストを下げられる、ということだと思います。
収集されたデータの例。個人情報は直接取得せず、発言録のダウンロードも可能見角さん: 17名のインタビューを人間がやれば、詰め込んでも3〜4日はかかりますし、ほぼそれしかできなくなる。それが同時並行で、自動で終わってしまう。定量アンケートを集めるのと同じ感覚で、定性のインタビューができました。提案前は時間がなくて、1件ずつ人力で実施する余裕がないことが多いんです。定性の情報がこのスピードで集まるのは、正直うれしいですね。
― 17名分の結果は、どうやって提案に落とし込んだのですか?
見角さん: 分析はスムーズでした。ユニーリサーチのAIが作るレポートに加えて、発言録のローデータをダウンロードできます。話者ごとに分かれていて、文字起こしの精度も良い。別の議事録ツールを挟む必要がなく、発言録を読み込めば分析に入れます。
長井さん: 最終的には、「もう一度このブランドが選ばれるには」という提案の中に、ユーザーの声というファクトに基づいたコメントを、論拠として加えることができました。
自動生成レポートの例。調査目的に沿った分析がまとめられる精度が上がるのではない。考え始める場所が変わる
― kiCkさんではいくつもの案件で弊社サービスを活用いただいていますが、リサーチで提案の精度は上がったと思いますか?
長井さん: リサーチで提案の精度が上がるというより、考えるための土台づくりが変わった感覚です。僕は「考える足場」と呼んでいます。「焦点はここだ」と思っていた場所とはまったく別のところに、考え始めるための足場ができる。着眼点そのものが変わるんです。
たとえばあるカテゴリでは、「お客様は数あるブランドの中から、こだわりなく選んでいるのではないか」と思っていました。ところが、インタビューをしたら軒並み熱心なユーザーばかりで、皆さんがそのブランドならではの良さを明確に感じていた。メーカー様が信じてきた価値を、ユーザーもきちんと受け取っていたのです。しかも、別のブランドのユーザーにはそうした傾向がない。この違いは、聞いてみなければ絶対にわからなかったことです。
考えの出発点がファクトに支えられていなければ、そこから先は全部想像、下手をすれば妄想です。妄想で提案しても、説得力はありません。
大手の膨大なデータには敵わない。それでも埋まる差がある
― 今後、AIインタビューに期待することを教えてください。
長井さん: 活用の幅はまだまだ広がると思っています。たとえば、ブランドコンセプトを作った後の受容性検証。定量調査では用意した選択肢の中からしか答えが返ってきませんが、会話の中で検証できることには大きな価値があります。ただ、それには大人数へのインタビューが必要で、人間がやるのは大変です。そこをAIインタビューが担ってくれると期待しています。毎年同じインタビューをして変化を定点観測する、といった調査にも向いていると思います。
インタビューを実施するハードル自体が大きく下がったので、時間とコストを理由に諦めていたテーマにどんどん使っていきたいですね。
早川さん: 社内でも、提案やクリエイティブの品質を上げるために、ユニーリサーチの勉強会を開く予定です。この可能性を、社内に広げていきたいですね。
― 最後に、kiCkとしての展望をお聞かせください。
長井さん: 大手広告代理店が持つ膨大なデータには、僕たちのような規模の会社は基本的にかないません。ですが、実際のお客様の声を多面的に拾い、分析して、考え方に落とし込むことは、もともと僕たちが得意としてきた領域です。質の高い一次データさえあれば、データ量の差は埋められます。
これまで現場のプランナーの想いや勘、経験に頼っていた部分に、お客様の声というファクトの土台が加わり、そこに自分たちの感性を掛け合わせる。生活者との対話から、考えもしなかったワクワクが生まれる。そういう仕事を、これからも増やしていきたいですね。
― クリエイティブの会社だからこそのリサーチ活用を伺えました。ありがとうございました。



