アンケートで市場を掴み、インタビューで課題を深掘る マイナビ『MOVE』が挑む“顧客課題の超追求”
株式会社マイナビは、人材情報サービスを中心に、就職・転職・アルバイト・進学・ウエディング・ニュース・農業など、多彩な分野で事業を展開しています。同社は創業50周年を迎える前年の2022年に、新規事業の開発・支援を担う「新領域開発室」を新設。「VUCAの時代」における挑戦を加速しています。
そして新領域開発室が主導する中心的な取組みが、全グループ社員から事業アイデアを募るコンペティション型の提案制度「MOVE(ムーブ)」です。制度からは早くも第1号事業「HugWag(ハグワグ)」が誕生し、ペットのトリミングサロンとオーナーをつなぐマッチングサービスとして2025年秋にリリースされました。
「MOVE」では、新領域開発室が起案者に伴走し、アイデアを事業化まで磨き上げます。特に重視しているのは顧客課題の追求。ユニーリサーチも積極的に活用し、事業案の精度を大きく高めています。
今回は、新領域開発室で「MOVE」の運営と伴走支援を担う井口 玲於奈さん、そして「HugWag」の事業責任者 尾西 舞さんに、ユニーリサーチの活用方法や導入効果について伺いました。
※本記事の内容は取材日2025年9月22日時点のものとなっています
創業50周年から始動した『MOVE』 266件の応募から誕生した第1号事業
― 「MOVE」について教えてください。
「MOVE」は、マイナビグループ全社員を対象とした新規事業提案制度で、創業50周年を迎えた2023年に始動しました。MYNAVI OVERALL VISIONARY ENTREPRENEURSHIP の頭文字をとり、「MOVE(ムーブ)」と名付けています。
1年強の期間の中で書類審査から始まり、2次審査、最終審査という段階的な検証を通じて、アイデアを事業化レベルまで磨き上げていきます。最終審査通過チームは翌年度に新領域開発室に異動し、半年間100%コミットで事業化を目指します。そして10月の経営会議で、最終的な事業化の可否が判断されます。
制度初年度には266件の応募が集まり、その中から第1号事業『HugWag』が誕生しました。
テーマは「顧客課題の超追求」 ソリューションありきからの脱却へ
― 本年は特に顧客の声の検証に力を入れられたと伺いました。
井口さん: 昨年まではビジネスモデルやソリューションの議論が先行し、肝心の顧客課題の検証が十分に行われていないケースが目立ちました。結果として「そもそも顧客が存在しない」というソリューションありきの起案も少なくありませんでした。
そこで今年は、二次審査までのテーマを「顧客課題の超追求」と定め、まずはここに徹底的に取り組むことにしました。土台となる顧客課題が固まっていなければ、後戻りが多くなり効率が下がってしまいます。逆に顧客像と課題が明確であれば、解決手段を変えて前に進めることができます。
ユニーリサーチも活用しながら、「それは本当に顧客の声なのか」「お金を払ってでも解決したい課題なのか」といった問いを繰り返し検証しました。「事業検証①」の3ヶ月間は特に、数と質の両面から顧客の声を集めることに力を注いでいます。
新領域開発室で「MOVE」の運営と伴走支援を担う井口 玲於奈さん
― その結果、二次審査の事業案の質はどのように変わりましたか?
井口さん: 顧客の声の解像度が大きく向上しました。今年は課題を構造化し、それを軸に議論を展開するチームが多く見られました。なぜその課題が生じるのかという背景理解が深まったことで、ソリューションの変更はあり得ても、ターゲット顧客への理解度は格段に高まったと思います。
設問設計と品質向上まで、事務局が徹底伴走
― ユニーリサーチの活用において、新領域開発室はどんな支援をしていますか?
井口さん: かなり細かいサポートを行っていると思います。
たとえば、インタビューの質問項目を事前に確認し、「この質問の目的は何か」「どんな情報を得たいのか」といった点まで丁寧にチェックします。ユニーリサーチの募集開始についても、事務局が管轄するルールに改めました。
当初は起案者に任せていたのですが、深掘りが不十分で表層的なやり取りにとどまってしまうことが多くありました。外部支援企業とのメンタリングの場で顧客課題について突っ込まれた際にも、十分に応答できないケースが頻発していました。原因の一つはインタビュー技術ですが、それ以上に設問設計の段階で適切に絞り込めていなかったことも大きいと感じました。
そこで「設計の段階から伴走することが不可欠だ」と考え、事務局が積極的に支援する体制へと切り替えています。
アンケートで仮説を確かめ、インタビューで深掘り 検証の精度を高める二段階活用
― ユニーリサーチのアンケート機能も活用されているとお聞きしました。
井口さん: はい、アンケートとインタビューは役割を分けて使っています。
アンケートは、市場のボリューム感や全体傾向を把握し、仮説に“確からしさ”を持たせるために実施しています。一方でインタビューは、「なぜそう思うのか?」という背景や理由を深掘りする場です。
アンケート調査では低価格で最短当日の回収ができる
まずアンケートで市場規模の裏付けを取り、方向性の手応えを掴んでから、インタビューで課題を具体的に探る。市場の大きさとユーザーの声という両面の根拠を揃えることで、検証の確実性と説得力が大きく高まります。
実際に、アンケートで見えた傾向をもとに仮説を立て、対象を絞ってインタビューを実施。その結果、具体的な顧客課題を発見し、プレゼンの質を高めたチームもありました。
スピード感と柔軟性が鍵 募集期間の短縮でニーズを的確に捉える
― ユニーリサーチで特に気に入っているポイントはありますか?
井口さん: まずはスピード感です。募集の締切を2〜3日と短めに設定できるので、食いつきの良し悪しをすぐに判断できます。反応が薄ければ条件を変えて再募集するといった柔軟な調整も可能です。通知もタイムリーで、進行全体が非常にスムーズだと感じています。
母集団の集まり方も早く、応募ゼロというケースはほとんどありません。過去の募集実績を参照できるので、「このテーマでどの程度インタビューが集まるのか」といった見込みを事前に判断できるのも便利です。
さらに大きいのは、“これから”のニーズを把握できることです。マイナビには3万社規模の顧客ネットワークがありますが、たとえば「今後転職を検討している個人」や「これから部活動を立ち上げたい企業」といった現在進行形のニーズは、既存の関係だけでは拾いにくいものです。ユニーリサーチなら、そうした“これから動こうとしている人”の声を効率的に集められます。知り合いづてに探すこともできますが、時間がかかる。短時間でアプローチできるのは大きな魅力ですね。
また、起案者自身が一定の作業を手元で完結できる一方で、事務局は上位権限で案件やチームを横断的に管理できる仕組みがあり、全体把握やサポートもしやすくなっています。制度運営の面でも助かっています。
「否定の声」こそヒントに 『HugWag』開発で感じたユニーリサーチの価値
― 「HugWag」事業ではどのようにユニーリサーチを活用しましたか?
尾西さん: ユニーリサーチは「MOVE」運営事務局から紹介を受け、事業開発の初期段階でターゲット顧客やユーザーの課題を把握するために利用を開始しました。
「HugWag」の事業責任者 尾西 舞さん
「HugWag」はトリミングサロンとペットオーナーを最適につなぐマッチングサービスです。そのため、顧客(トリマー)・ユーザー(ペットオーナー)の本質的な課題を丁寧に把握することが非常に重要でした。
2025年10月にローンチした第1号事業『HugWag』
ユニーリサーチは2023年10月にトリマー、2024年4月にペットオーナー、さらに5月には反応が芳しくなかったタイミングで再度課題を見直すなど、複数回にわたるヒアリングで活用しています。
たとえばペットオーナーへのヒアリングでは、募集終了前に上限の150名に達し、在住地・年代・性別・職業・犬種・トリミングや飼育に関する課題などの事前設問をもとに対象者を選定できました。事前設問の設計は、ヒアリングの質を左右する重要なポイントですね。
ヒアリング対象の探索から日程調整までスムーズで、候補者を自分で選べる仕組みもありがたかったです。ペルソナに近い方だけでなく、あえてペルソナ外の方も含めて偏りなく対象者を選定でき、効率的かつ網羅的なヒアリングが実現しました。
― ユニーリサーチを活用する中で、どんな価値を感じましたか?
尾西さん: 社内のペットオーナーにもヒアリングしていましたが、「起案者を応援したい」というバイアスが働き、本音を引き出すのが難しいと感じていました。私自身が直接足を運んで聞く場合も同様です。
本当に必要だったのは「否定の声」。賛同よりも課題の本質に迫るヒントが得られると考えていました。ユニーリサーチを通じて、私の人柄を知らない方から率直な意見を聞くことができ、事業開発における意思決定に大きく貢献しました。
また、全国のユーザーの声を拾えたのも大きな成果でした。私は東京都在住で、活動時間も土日祝や平日夜に限られていたため、どうしても関東圏で似た生活スタイルの方に偏りがちでした。しかし、サービスの対象となるユーザーは全国にいて、日中に活動する方も多い。このような方々の声を拾えないことは、事業開発において致命的な欠陥につながってしまいます。
ユニーリサーチでは、そうした層を含め幅広く声を集められたことが大きな価値でした。
― 特に便利だと感じた機能はありますか?
尾西さん: 日程調整機能です。
2者間の調整でも大変なのに、ヒアリング完遂の期限がある中では難易度がさらに上がります。ユニーリサーチでは、こちらが提示した日程の中で対象者が自動調整してくれるため、再調整の手間がほとんどありませんでした。
複数名と平行した日程調整もダブルブッキングなく自動で調整ができる
驚いたのは、連絡が取れない方が1名もいなかったこと。皆さん丁寧に対応してくださって、返信が滞ることもありませんでした。最終審査会や経営会議への提出スケジュールがあるので、限られた時間の中で効率よく対象者とコンタクトを取れる点は、非常に助かりました。
事業開発においては「鮮度=スピード」が重要です。自分でヒアリングを進めつつ、ユニーリサーチを併用することで、スピードと質の両面で成果を得られたと感じています。
ユニーリサーチは、私にとって欠かせない存在です。
全社戦略に寄り添いながらも変わらぬ姿勢 「顧客課題の超追求」で挑み続ける
― 今後の展望について教えてください。
これまでは、起案者一人ひとりの「原体験ドリブン」で進めてきましたが、今後は会社の中期経営計画と歩調を合わせ、より大きな事業へと発展させていくことも重要だと考えています。
ただし、どんなに方向性が変化しても、顧客の課題と声を丁寧に拾い上げる姿勢は変わりません。むしろ、全社戦略に沿った事業づくりの中で、「顧客課題の超追求」という原点は、これまで以上に重要になっていくと思います。
「MOVE」はまだ3期目の取り組みですが、より良い制度と仕組みを目指しながら、アップデートし続けることで、マイナビの新たな成長を支えていきたいと考えています。



