「女性の一生に寄り添う」価値創出を加速。ユニ・チャームMDX本部が実践するアジャイルなリサーチ

ユニ・チャーム株式会社は、フェミニンケアやウェルネスケア、ベビーケア、ペットケアといった生活に寄り添う4つの領域で、国内外に幅広く事業を展開する大手日用品メーカーです。不織布や吸収体に関わる技術を強みとし、生理用ナプキン『ソフィ』やベビー用紙おむつの『ムーニー』、排泄ケアの『ライフリー』など、さまざまな世代の健康をサポートする商品やサービスを提供しています。
2023年7月に新設された同社MDX本部(Marketing by DX)は、デジタル活用を推進することで各ブランドの枠を越え、「女性の一生に寄り添う」新しいビジネスモデルの創出を目指す社長直下の組織です。
今回は、MDX本部で生理・体調管理アプリ「ソフィBe」の体験設計を担うストラテジックデザイナー 松薗 美帆さんに、ユニーリサーチを活用したアジャイルなリサーチの実践と、社内に根づく文化について伺いました。
※本記事の内容は取材日2025年4月17日時点となります
「女性の一生に寄り添う」事業を生み出し、LTV(Life Time Value)を最大化。ユニ・チャームMDX本部の挑戦
― MDX本部の取り組みと、松薗さんのお仕事について教えてください。
松薗さん: MDX本部(Marketing by DX)は、デジタルの活用によって新たな事業を生み出すことを目的に、2023年に新設された組織です。私の所属するプロダクト開発チームは、ITプロダクトの構築に強みを持つメンバーで構成されており、デジタル開発に関わる多様なスキルセットを活かしています。
本部のミッションは、「女性の一生に寄り添う」商品やサービスを通じて、お客様と長くお付き合いできる関係を築くこと。既存ブランドの商品や体験を、女性のライフステージに合わせてつなげることで、LTVの最大化を目指しています。たとえば、10代20代の頃に『ソフィ』を使っていた方が、妊娠・出産期には『ムーニー』、さらに更年期や介護のフェーズでは『ライフリー』など、ライフステージに応じて自然とユニ・チャームの商品やサービスに触れていただけるような価値提供です。
私はその中で、「ソフィBe」という生理・体調管理アプリの体験設計を担当しています。ストラテジックデザイナーとして、ユーザーリサーチを重ねながら、得られたインサイトをもとに事業を設計していく役割を担っています。
ホルモンバランスの“ゆらぎ”に着目 生理・体調管理アプリ「ソフィBe」の開発背景

― 「ソフィBe」は、どんな課題から着想されたのでしょうか?
松薗さん: 女性の生理は、経血のある期間だけでなく、生理前の不調(PMS)や排卵期など、ホルモンバランスの変化によって心身に大きな負担がかかります。さらに、生理は約40年間続くと言われており、その間には妊娠や加齢によるホルモンバランスの変化も重なっていきます。
こうしたホルモンバランスの“ゆらぎ”に着目し、「生理の時だけ使うアプリ」ではなく、日常的に女性の体調と心に寄り添う存在を目指して「ソフィBe」の開発が始まりました。
現在は、「生理モード」と「妊活モード」の2つの機能を提供していますが、今後さらに機能を拡充し、多様なニーズに応えていきたいと考えています。また、生理や妊活などは女性だけの問題ではなく、パートナーや職場、社会全体で理解・支援していくことが必要です。そのため、「妊活モード」にはパートナーにLINEで通知できる機能も搭載し、妊活を一人で抱え込まず、共に向き合える環境づくりを意識して開発を進めています。
― サービスには、AI技術も取り入れているそうですね。
松薗さん: そうですね。生理に関する悩みは、友人にも話しづらいことが多くあります。だからこそ、AIを活用してユーザーデータを分析することで、自分でも気づいていなかった心身の傾向を把握したり、対処のヒントを得たりするサポートにつながると考えています。
顧客の声を重視する企業文化を背景に、MDX本部ではアジャイル開発に適したリサーチを実施
― 事業開発を進める中、どんなフェーズでリサーチを実施されていますか?
松薗さん: リサーチは大きく「探索」と「検証」の2つのフェーズに分けて実施しています。
探索フェーズでは、大規模な機能開発を控えるタイミングなどに、ユーザーインタビューやコンセプトテストを重ねながら、事業の進むべき方向性を探っていきます。仮説を立てて、それを検討・精緻化していくプロセスです。
方向性がある程度固まってきた段階からは検証フェーズに移ります。週単位で進行するスプリントの中に「検証の日」を設け、曜日を固定してコンセプトテストやユーザビリティテストを高頻度で行っています。
メンバーの多くが自然とユーザーインタビューの場に参加しています。レポートで伝えるまでもなく「課題はこれだよね」と意見が一致するので、すぐにアクションにつながっていきます。こうしたスピード感は、全社に根づく「お客様の声を聞く文化」の土壌があるからこそ実現できていると感じています。
― 「お客様の声を聞く文化」が浸透する背景について教えてください。また、MDX本部として特に意識されているリサーチのあり方はありますか?
松薗さん: ユニ・チャームでは「現状を正確に捉える」ことを重視し、一次情報を何より大切にする文化が根づいています。経営の意思決定においても「N1の声」が重要な視点として反映されており、「一人の悩みや困りごとから社会全体の課題を捉える姿勢」が根付いています。
そうした企業文化を背景に、MDX本部ではデジタルプロダクトの開発にアジャイル手法を取り入れ、仮説と検証を短いサイクルで繰り返すことを重視しています。フェミニンケア領域に長年の知見を持つ当社ですが、「生理・体調管理アプリ」という新しい文脈では過去の経験だけでは補えないこともあります。だからこそ、実際のユーザーがどう感じているのかを常に学びながら、頻繁に仮説検証を重ねているのが今のスタイルですね。
自社でのリクルーティングが難しい、サービスをまだ利用していない方へのアプローチ 日程調整が楽になりリサーチ業務はシンプルになった
― ユニーリサーチの導入に至った背景を教えてください。
松薗さん: ユニーリサーチはこれまでの経験でスピード感と手軽さを理解していたので、「ソフィBe」の開発においても私から導入を提案しました。
当時は「ソフィBe」はユーザー数もまだ少なく、「これから伸ばしていくぞ!」というフェーズでした。特にアプリダウンロード時のつまづきポイントをしっかり捉えてプロダクトを改善するために、未利用者に対して頻度高く調査を行う必要がありました。ただ、自社だけでリクルーティングを行うのは難しく、スピード感のある調査ができないことが大きな課題でした。
また、社内では「ユーザーの声を聞く」こと自体は重要視されていましたが、特に未利用者に対する調査では日程調整や謝礼の支払いといった事務タスクが多く、「リサーチを重ねるほど大変」と感じる面もあったと思います。
その点で、ユニーリサーチは非常に相性が良いと感じました。翌日には候補者が集まるほどのスピード感があり、日程調整や謝礼の支払いもスムーズです。導入後、実際に使ったメンバーからも「ユニーリサーチの日程調整ツールが本当に便利」と好評です。業務がシンプルになって助かっています。
マニュアルなしで使えるUI ユニーリサーチの社内利用が広がり、リサーチ人口増加に貢献
― 現在、ユニーリサーチは他部署でも活用されているのでしょうか?
松薗さん: MDX本部内で、他の事業開発チームが、新規サービスの方向性を検討するために利用しています。
現在は他部門からも関心をいただき、社内に広めているところです。ユニーリサーチのUIは直感的なので、マニュアルがなくてもすぐに使えるのがありがたいですね。業務効率化にもつながっており、リサーチを広めていく中で、とても心強いツールだと感じています。
― ユニーリサーチを活用しインタビューを行う中で、得られた気づきがあれば教えてください。
松薗さん: 自社でインタビュー対象者を探す場合は、「ソフィBe」に対して好意的な方とお話することが多くなります。一方、ユニーリサーチを通じて未利用者の声を聞くと、生理管理に対するモチベーションがそこまで高くなかったりと、よりフラットな感覚に触れたりすることができます。
自分たちでアプローチできる方の話だけを聞いてしまうと見誤ってしまうケースもあるので、冷静になってバランスを取る意味でも未利用者のリサーチは気づきが多いです。
今はスタートライン 多様な領域で価値創出を加速するにはリサーチ人材の強化が必要
― 最後に、MDX本部として今後どのような展望を描いているかを教えてください。
松薗さん: 「女性の一生に寄り添う」という目標に対して、まだ形にできているのはほんの一部です。ようやくスタートラインに立ったところです。今後はより多様な領域へと広げていくために、価値創出を加速する必要があると感じています。
ただし、単に数を増やすことが目的ではなく、女性の課題や“負”にしっかりと向き合い、深く理解したうえで事業化していくことが大切です。そのためにも、私たち自身がユーザーインサイトをより正確に、深く捉えられる状態を整えていく必要があります。
その実現には、一緒に挑戦してくれる仲間の存在が欠かせません。組織基盤をさらに強化し、リサーチのスキルや実行力を持つ人材を増やしていきたい。そして、スピードと質の両立を図りながら、新しい価値を次々と生み出せるチームをつくっていけたらと考えています。ユニ・チャームMDX本部では、UXデザイナーの採用を実施しています。ご関心のある方は、ぜひ下記の採用ページよりご覧ください。
https://hrmos.co/pages/unicharm/jobs/10-SD
