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消費者理解を深める「訪問調査」意義や事前準備をプロが徹底解説by奥泉直子氏

消費者理解を深める「訪問調査」意義や事前準備をプロが徹底解説by奥泉直子氏

訪問調査(ホームビジット調査:HV)はユーザーの自宅に訪問し、普段の生活環境や習慣を観察することで、アンケートやインタビュー調査よりも深い生活者理解を可能にします。一方で調査対象者のリクルーティングや実査の難易度が高く、手法面でハードルを感じるご担当者も多いことでしょう。そこで、数多くの調査経験を持ち、ユーザーインタビューに関する著書も出版されている奥泉直子氏をお招きし、イベントを開催しました。本記事では訪問調査の事前準備や調査当日の動きをご紹介します。 なお、以下から実際のイベント動画もご視聴いただけます。一部記事内で取り上げきれなかった部分もございますので、ぜひ合わせてご覧ください。

※本イベントのスライドは鳥獣戯画を利用し作成しています。

【無料】このイベントを動画で見る

スピーカー 奥泉 直子氏 フリーランス ユーザーリサーチャー

訪問調査が有効な場面とは?意義や価値について

ー奥泉氏

対面調査は表情や視線、身振りなどのノンバーバルコミュニケーション(非言語コミュニケーション)を活用しやすい手法です。そのため、オンラインインタビューとは異なる意義や価値があります。具体的には次の3つが挙げられます。

1. ユーザーの発話の信憑性が上がる

ー奥泉氏 訪問調査はご自宅に訪問をさせてもらうため、ユーザーに緊張感を与えずに済みます。もちろん自宅に招き入れるという部分においては、緊張感を完全に拭い去るのは難しいかもしれませんが、比較的リラックスしてお話いただけると思います。 また、ユーザーの発話の信憑性が上がる根拠として「符号化特定性原理」という認知特性があります。これは、記憶したときと同じ状況に置かれると、情報を思い出しやすくなるというものです。 実際に私が経験した例では、回答に詰まったユーザーから、「キッチンで作業をしていたときの出来事なので、キッチンに行けば思い出せるかもしれないです。」と言われたことがあり、一緒にキッチンへ移動してインタビューをさせてもらったことがあります。

2. 環境や状況を見て確認しながら対話ができる

ー奥泉氏 オンラインインタビューにおいても、画面共有機能などにより状況を共有しながら対話する手段がありますが、訪問調査の場合はヒントを与えてくれる材料に触れられるチャンスがさらに広がります。 例えば、書き込みが細かくされているカレンダーを見つけた際は、目を通しながらインタビューを実施できないかを提案してみてください。ユーザーが当時を振り返りやすくなります。また、カレンダーでなくとも日記やスケジュール帳、スマホなどご自宅に伺うことで、ヒントを目ざとく見つけることができます。

3. ユーザーが「無関係」と思い込んでいることも聞ける

ー奥泉氏 ユーザーによっては、インタビュー前に準備をしてくれる方もいらっしゃいますが、同時に無関係だと思い込んでいる情報を排除してしまう場合があります。記憶に頼りがちな会場インタビューなどでは、排除された情報を呼び起こすことが難しいですが、訪問調査であればモデレーター側で気づいて対処することが可能です。 例えば、サプリメントの調査において、日頃服用しているものをご準備いただいていた場合でも、サプリメントを普段置いている棚に、一緒に置いているものや冷蔵庫に入っているものなど、関連したものについても話を聞くことができるのです。

訪問調査を実施するときの事前準備の心得

ー奥泉氏 訪問調査の利点をフル活用するには、訪問前の事前準備が欠かせません。こちらについても、3つの点を意識してみてください。

1. 観察すべきポイントをしっかり議論しておく

ー奥泉氏 せっかくの訪問調査ですので、観察・知りたいポイントは徹底的に議論しましょう。一方で時間的な制約で調査しきれなかったり、ユーザーからNGが出てしまう内容もあったりします。 そのような場合にも備えて、既知の事実は確認程度にしようということや、事前に観察ポイントの優先順位づけをするなどを決めておくなどをしておきましょう。そうすることで、想定外の気づきを拾うという訪問調査ならではの目的が達成できます。

事前議論で気をつけたい認知特性

ー奥泉氏 インタビューや訪問調査の準備で気を付けたい認知特性があります。それは「確証バイアス」です。確証バイアスとは、人は自分の仮説や期待に合う情報を積極的に求める故に、望んでいないものに接した際に「見なかったことにしてしまう」ということです。具体的には、事前議論の段階において、期待する情報を得るためだけに、質問を設計してしまうことなどが挙げられます。 訪問調査実施中においても、ユーザーの発話を誘導し証拠固めをするような質問をしてしまうことがあります。事前準備から訪問調査実施当日においても確証バイアスには十分お気をつけください。

2. ユーザーに何をどこまで事前に伝えておくかを決める

ー奥泉氏 見せてほしいお部屋があるなど、あらかじめユーザーにお願いしたい点が出てきたら、調査に伺う前にユーザーに共有しましょう。寝室などのよりプライベートな空間は、お断りされてしまうというケースもあるため、NGが出る可能性がある内容は事前にお伝えするべきです。 一方で逆に準備をしてほしくないことがある場合においても、意識的に伝えるようにしましょう。例えば、上図のように調査対象がユーザーの生活にどのように溶け込んでいるのかを確認したい場合は、準備を意図的に避けてもらう必要があります。

3. 本題以外に使う時間が最小限になるよう準備を整える

訪問調査はあらゆる要素を探ることができるため、確実に時間が足りないという状況に陥ります。不必要なタイムロスを防ぐためにも次のポイントは必ず意識するようにしましょう。

遅刻厳禁

ー奥泉氏 遅刻は絶対に厳禁ですので、訪問先は入念に確認します。住所だけではなく、一軒家か集合住宅かユーザー本人に聞いておきましょう。特に集合住宅の場合はエントランスの場所、そこからお部屋へのアクセスに至るまで注意深くご確認ください。 最近はGoogleストリートビューにより、周辺の様子や最寄り駅からのアクセスがチェックしやすくなりました。ただ、当日は予期せぬアクシデントに見舞われるケースも少なくありません。早めに現地入りできる場合は実際に訪問先まで確認しに行き、近隣で時間を潰すのがおすすめです。

事前連絡

ー奥泉氏 ユーザー側とモデレーター側に齟齬が発生し驚くことがないよう、事前連絡では訪問日時・訪問人数も細かに伝えるのが重要です。同日内に複数回の訪問調査がある際には、「早く着きそうな場合は、早めにお伺いしても良いですか」と聞いてみるのもおすすめです。 また、普段の状況を確認したい調査の場合は過度なお掃除をお控えいただくことも伝えましょう。気を遣っておもてなしをしてくださるユーザーもいますが、飲み物の準備などで時間のロスになることもあるため、あらかじめ不要であることもご連絡ください。

適度で適切な装い

ー奥泉氏 ご自宅に訪問するので清潔感は必要ではありますが、立ったり座ったりを繰り返すこともあるため、動きやすい装いで伺うようにしましょう。手荷物については、事前にご自宅の広さがわからないことから、必要なスペースを確保するためにも最小限にします。 靴はご自宅に上がるということもあるため、脱ぎ履きのしやすさは必須のポイントです。加えて雨天時は、濡れた状態でご自宅に上がることがないよう靴下やタオルも持参しましょう。

訪問調査を実施するときの注意点と解消方法

前述の通り訪問調査は、他の調査手法では得られない意義や価値が多数ある一方で、注意点もあります。それらの注意点を事前に解消する対応策と合わせてご紹介します。

1. 訪問できる人数が限られる

ー奥泉氏 訪問先は大きなご自宅ばかりではないため、現地へ出向ける人数が限られます。訪問する人数は多くとも4名、可能であれば3名までに絞ります。同行希望のメンバーが多い場合は、別の訪問先で担当を交代しましょう。 また、現地へ出向けないメンバーには近くデブリーフィング用会場で、待機してもらうようにします。その際、録画や配信という形で遠隔地のメンバーに対して共有を行うのも良いでしょう。

2.ロジスティクスが大変

ー奥泉氏 訪問調査は他調査に比べ勘案しなくてはならいポイントが多く、ロジスティクスが大変です。そのため、事前準備の段階でモデレーター以外に後方支援をするロジスティクス担当を決めておきます。 ロジスティクス担当は、訪問先へのアクセスはもちろんのこと、休憩できる場所やデブリーフィング用会場の選定・確保も含む全体的なスケジューリングを担います。また、訪問に向けた備品やドキュメントの準備もすることで、モデレーターは安心して調査に臨めます。

3.家族やペットの同席を拒めない

ー奥泉氏 訪問調査の場合は特に、ご家族やペットの同席を拒みにくい点に注意が必要です。ご家族がいることでユーザーの発言が歪む恐れがあったり、ペットの鳴き声により録音がクリアにできていなかったりなどのアクシデントも考えられます。 一方で、ご家族がいることでかえって発言の誤りを訂正してもらえたり、他の方の意見を聞けるチャンスに繋がったりする場合もあります。いずれにせよ、あらかじめ備えられるように、ご家族やペットの同席を確認するようにしましょう。

訪問調査で有益な情報を得るために実施当日に意識したいこと

ラポールを築く

ー奥泉氏 ラポールとは、お互いを信頼し合い、気兼ねなく心を開いて語り合える関係性を指します。訪問調査に限った話ではありませんが、ユーザーインタビューではラポールを築くのが重要です。訪問先ではユーザーの心に橋をかけるという意識を常に持つようにしましょう。

主観と客観を行き来する

ー奥泉氏 訪問調査はせっかくの生活空間に入り込める機会でもあるため、ユーザーが日頃から感じている主観に対して共感する時間を設けます。ただ、第三者の立場で先入観なく客観視したからこそ気づけるポイントもあります。 モデレーター側は、最大限に主観と客観を行き来できるよう、事前準備を入念にし工夫できるようにしましょう。

まとめ

ー奥泉氏 訪問調査は入念な準備とチームワークで乗り越えられます。現地に訪問するメンバーだけではなく、後方支援をするロジスティクス担当を含むチーム一丸となって、クオリティーの高い調査を目指してみてください。 以下では、記事内でご紹介しきれなかった内容を含む、実際の講義動画もご覧になれます。ぜひ、合わせてご覧ください。 【無料】このイベントを動画で見る また、訪問調査を実施を検討しているものの、予算やスピード感において課題を抱えていらっしゃる場合は、ぜひユニーリサーチをご検討ください。間に人が介在しないセルフ型のサービスのため、1名25,000円〜たった数日で訪問調査が実施できます。 今回のレポートにあった事前連絡や同意取得といった作業もシステム上で行なえるため、訪問調査初心者の方でも気軽に訪問調査を実施いただけます。サービス詳細や利用事例は以下から、ぜひご覧ください。 ユニーリサーチ紹介資料を見る

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登壇した人
【登壇者】奥泉 直子氏(フリーランス ユーザーリサーチャー)
【登壇者】奥泉 直子氏(フリーランス ユーザーリサーチャー)
業界や国内外を問わず、さまざまな商品やサービスの開発や改善を目指すものづくりのプロジェクトにユーザーリサーチャーとして数多く従事。また、人間の認知特性を踏まえて調査に臨むことの意義とそのためのノウハウを伝える講義やセミナーの講師を務め、後輩の育成と指導にも積極的に関わる。 訳書に『ウェブ・インクルーシブデザイン』(2023, マイナビ出版)、共著書に『HCDライブラリー第7巻 人間中心設計における評価』(2019, 近代科学社)、著書に『ユーザーの「心の声」を聴く技術』(2021, 技術評論社)などがある。
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