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【成果を出すためのユーザーインタビューの事前準備】成功を阻む人間の認知特性を交えてプロが解説by奥泉直子氏

【成果を出すためのユーザーインタビューの事前準備】成功を阻む人間の認知特性を交えてプロが解説by奥泉直子氏

ユーザーインタビューの有効性は広く認知され、多くの方がインタビューに取り組むようになりました。しかし、自身のインタビュースキルに自信を持っている方の割合は45.5%と半分に満たないという調査結果※があります。そこで、『ユーザーの「心の声」を聴く技術』の著者である奥泉直子氏をお招きし、イベントを開催しました。本記事ではインタビューガイドの作成方法や質問内容を考える際に意識すべきポイントを、人間の認知特性を交えご紹介します。

※ユニーリサーチ独自調査(ユニーリサーチの利用者145名へのアンケート結果) なお、以下から実際のイベント動画もご視聴いただけます。一部記事内で取り上げきれなかった部分もございますので、ぜひ合わせてご覧ください。

※本イベントのスライドは鳥獣戯画を利用し作成しています。 【無料】このイベントを動画で見る 登壇者情報 奥泉 直子氏 フリーランス ユーザーリサーチャー

まず確認したいユーザーインタビューの効果

ー奥泉氏 ユーザーインタビューを行うことで、簡単にインサイトや潜在的なニーズを聞かせてもらえると期待される方もいらっしゃるでしょう。しかし、この認識は誤りです。 ユーザーインタビューの実施により得られる効果はインサイトではなく、利用文脈や利用状況などの「インサイトに繋がるヒント」です。具体的にはユーザーがどのような状況・意図・理由で何を使いどのような感情を抱いたのかといった情報です。

利用状況の把握の重要性

ー奥泉氏 UXを専門とする千葉工業大学の安藤昌也教授は、「人間中心設計で最も重要で根幹をなす概念は利用状況。なぜならば、人の行動や感覚は状況次第であり、利用状況が手がかりとなる」という趣旨を述べています。

要するに、利用状況を丹念に調べ上げることで、人の行動の奥底にある本心が見えてくるということです。ものづくりに活かせるインサイトは、ユーザーインタビューを通して得たヒントを元に、丹念に分析した結果として手に入るという訳です。

ユーザーインタビューにおける目標設定の重要性

ー奥泉氏 ユーザーインタビューを実行する際、「何を聞くか(インタビュークエスチョン)」から検討してしまうケースが多いですが、実際には第一に「何を明らかにするか(リサーチクエスチョン)」を明確にするのが重要です。

リサーチクエスチョンは、言い換えれば調査の目的と目標。ユーザーインタビューの事前準備の根幹でもあるリサーチクエスチョンを徹底的に議論してから、最後にインタビュークエスチョンを検討しましょう。

ユーザーインタビューの目標の立て方

ー奥泉氏 ユーザーインタビューにおける目標を決めるには、「知っていること」と「知らないこと」を整理するところから始めます。そして、「知らないことを知ること」を目標に据えましょう。

しかし、「知っていること」と「知らないこと」は白黒はっきりしないことも多いものです。このようなグレーゾーンが存在する背景には、人間がもつ「認知特性」があります。

ユーザーインタビューの事前準備で注意すべき人間の認知特性

ー奥泉氏 人間の認知特性には「バイアス」が存在し、ユーザーインタビューの成功を阻む原因になってしまうことがあります。

ユーザーインタビューによって「知らないこと」の中の「本当に知らない」ことを明らかにするために、次の認知バイアスに注意しながらチームで議論するようにしましょう。

以下ではいくつかの主要な認知バイアスをお伝えします。

認知バイアスその1:アンコンシャスバイアス

ー奥泉氏 アンコンシャスバイアスとは、日本語で偏見や思い込みと訳されます。例えば、「介護をしている人は疲れているだろう」という思い込みから、介護疲れを前提に質問してしまう場合などが挙げられます。

そんな思い込みの一方で、実はユーザーの心理が「楽しく暮らしており、介護に疲れていない」場合には、誘導的な質問になってしまう恐れがあります。

人は無意識の偏見や思い込みから、偏ったものの見方をしてしまいがちです。ユーザーインタビューの事前準備の段階では、思い込みを書き出してインタビュークエスチョンやリサーチクエスチョンに悪影響を及ぼさないようにしましょう。

認知バイアスその2:知識の呪い

ー奥泉氏 知識の呪いとは、自分が知っていることは他人も知っているものだと思い込んでしまうというバイアスです。

ユーザーインタビューの事前準備では、「自分が知っているからチームメンバーも理解しており、ユーザーに問う必要がない」と候補から外してしまうなどの影響があります。しかし、これではユーザーに確認すべき大切なポイントを見落としかねません。

そのため、知識についてもチームメンバー全員で吐き出して議論してみるのが大切です。

認知バイアスその3:認知的不協和の回避

ー奥泉氏 認知的不協和とは、自分の中に矛盾する意見や気持ちが共存する状態です。人はこの矛盾に対して居心地の悪さを覚え、状況を打破するために自分の意見や気持ちを改変(回避)してしまいます。

例えば、ユーザーインタビューで良い調査をしたいという気持ちに反して、力不足で成果を上げられない状況に接すると、結果を出しやすい目標設定に逃げてしまおうとするなどが考えられます。あるいは、時間や予算を引き合いに出して逃げ道をとることも回避行動です。

想定と異なる状況に陥った際は、無意識に認知的不協和の回避を行っていないか意識を持つようにしたり、チーム全体でフォローをしましょう。

インタビューガイドの役割とつくり方

目標設定やリクルーティングがスタートできたら、いよいよインタビューガイドの作成に移ります。インタビューガイドには、インタビュークエスチョン(何を聞くか)だけではなく、質問順序や意図、時間配分なども記載します。

インタビューガイドが担う役割は次の3つの点があります。

1.モデレーターの認知負荷軽減

ー奥泉氏 聞くことを整理することで、モデレーターは設問を記憶に定着させることができます。また、記憶容量に頼るだけではなく、インタビュー中の道標にもなります。

ただ、台本のように上から下まで全て読み上げるのではなく、あくまでも抜け漏れを防ぐためのチェックリストとして利用しましょう

インタビューガイドへの落とし込み方

ー奥泉氏 まずは冒頭に、調査の目的や目標を書くようにしましょう。ユーザーとの会話が弾んでくると、つい本筋を見落としてしまうことがあります。そのため、うっかり記憶が飛んでしまっても簡単に目的が確認できるようにしておきます。また、インタビュー前に案内したい注意事項や了承を取る必要がある点も、記載しておくのがおすすめです。

設問部分では、問いの意図についても書き添えることで趣旨のずれを軽減できます。ただ、全ての設問に記載してしまうとガイドが膨大な長さになってしまうため、意図がわかりにくい質問のみとするなどの工夫をしてみてください。

2.舵取りのためのガイドライン

ユーザーインタビューで決められた時間を有効に使うために、ガイドラインも記載します。

インタビューガイドへの落とし込み方

ー奥泉氏 設問には通し番号を振ります。例えば1時間のインタビューで60の設問を用意していた場合、30分経過した段階で15問程度で推移していたとすると、後半で巻き返す必要があると判断できます。

また、全体の何割程度の設問を終えられているのかを確認しやすくするためにも、セクションごとに目安時間も記載しましょう。

3.共有

ー奥泉氏

ユーザーインタビューは一人で実施することよりも、チームで挑むことが多いことでしょう。あるいは、クライアントから依頼されているケースもあるかもしれません。いずれにせよ、他の方に共有する必要性が出てきます。インタビューガイド設計の段階から共有を前提とした形式にしましょう。

インタビューガイドへの落とし込み方

ー奥泉氏 共有の役割においても、調査の目的や目標、通し番号、問いの意図の記載は重要です。特に番号は、「セクションAの8番目」などと複雑にすることなく、必ず通し番号を記載をしましょう。

チームでディスカッションをする際に、番号がシンプルなだけでもコミュニケーションを取りやすくなります。

インタビューガイド作成時の心得

インタビューガイドをどのように作成するかの具体策は幅広くあります。ここでは全てご紹介するのが難しいため、作成時点で大切にしたいコツを解説します。

インタビューガイド設計時の質問とその順序は仮決めとする

ー奥泉氏 インタビューガイドの作り込みにおいて、どこまで対応するのか悩まれる方も少なくありません。その際は、質問とその順序は「仮決め」という意識を持ちましょう。

どこまで作り込んでも、ユーザーの数だけあらゆる方向にインタビューは進みます。実際の対話を想像しながら質問も順序も考える必要はありますが、一番流れとして可能性がありそうな形で決め打ちしてしまいましょう。

順序でつまずいてしまったら

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ー奥泉氏 インタビューの序盤では、ユーザーと信頼関係が築けていないため、答えやすい背景情報を問うところからスタートします。背景情報を知ることで、どのような生活を送っているのか、調査テーマに沿った日常生活のシーンはどのようなものかを感じ取ることができます。

そこから徐々に行為や思考を通して、ファクトをしっかりと聞くような質問に移ります。ユーザーの意思決定や判断基準に、どのような背景があるのかを理解することで、本質的な価値観へ切り込みを入れやすくなるのです。

オープンクエスチョンを積極的に使用する

ー奥泉氏 人には「確証バイアス」という、自分の仮説や期待に合う情報を積極的に求めてしまう性質があります。発話を限定してしまうクローズドクエスチョンの特性上、確証バイアスが働き、知らず知らずのうちにモデレーターがユーザーを誘導してしまう可能性が高まります。

また「心的制約」という無意識の囚われから抜け出せない認知特性も意識したいポイントです。クローズドクエスチョンでは、モデレーターの想像の範囲内の情報しか得ることができません。ぜひ、書き出されたクローズドクエスチョンはオープンクエスチョンに切り替えられないか見直してみましょう。

オープンクエスチョンでつまずいてしまったら

ー奥泉氏 オープンクエスチョンは、さまざまな回答を引き出せる特徴がありますが、ユーザーを迷わせてしまう側面もあります。

オープンクエスチョンでユーザーの語りが十分に引き出せない場合は、一度クローズドクエスチョンに切り替えることで解消を狙いましょう。ユーザーの状況に合わせて、双方を行ったり来たりしてみてください。

インタビューガイドはモデレーターが作成する

ー奥泉氏 モデレーターは、インタビューガイドの構成や設問を考えた時間だけ、記憶に定着させることができ、現場でも臨機応変に立ち回ることができます。インタビューガイドの作成は予行演習の一環として捉え、モデレーター自身が作成したり、少なくとも目を通す時間を多く確保しましょう。

また、人が作ったインタビューガイドは、自分の言葉で表現されていないため、他人が読み上げるだけでも一苦労です。別の方にインタビューを依頼する場合は調査の直前ではなく、目を通す時間を十分に確保できるよう、前もって共有しましょう。

まとめ

ー奥泉氏 ユーザーインタビューに臨むには準備が大切です。目的と目標が明確であれば、設問や順序にとらわれすぎる必要はなくなります。そのためにも、チームで入念に議論を重ねましょう。

また、人間の認知特性を正しく理解することで、バイアスのかかった歪んだデータを集めてしまうリスクを最小限にできます。認知バイアスについても、この機会に興味をもって勉強されてみてください。

以下では、記事内でご紹介しきれなかった内容を含む、実際の講義動画もご覧になれます。ぜひ、あわせてご覧ください。

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登壇した人
【登壇者】奥泉 直子氏(フリーランス ユーザーリサーチャー)
【登壇者】奥泉 直子氏(フリーランス ユーザーリサーチャー)
業界や国内外を問わず、さまざまな商品やサービスの開発や改善を目指すものづくりのプロジェクトにユーザーリサーチャーとして数多く従事。また、人間の認知特性を踏まえて調査に臨むことの意義とそのためのノウハウを伝える講義やセミナーの講師を務め、後輩の育成と指導にも積極的に関わる。 訳書に『ウェブ・インクルーシブデザイン』(2023, マイナビ出版)、共著書に『HCDライブラリー第7巻 人間中心設計における評価』(2019, 近代科学社)、著書に『ユーザーの「心の声」を聴く技術』(2021, 技術評論社)などがある。
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