エスノグラフィとは?調査方法やマーケティングでの活用について解説
「エスノグラフィ」は、対象となるユーザーの生活様式に長期間入り込み、観察する調査方法です。もともとは民俗学や文化人類学で用いられてきた手法をマーケティングに応用しています。
対象ユーザーの普段の生活の中で行うことで、無意識にかかるバイアスの影響を軽減し、対象者自身も意識せずにとっている行動や、会話を調査することができます。そのため、潜在ニーズの発見や、ユーザーの行動の理由などを深堀りするのに適しています。
この記事では、エスノグラフィをマーケティングで活用する際の調査方法について解説します。
- エスノグラフィ(行動観察調査/ethnography)とは
- エスノグラフィと社会学・人類学の関係
- エスノグラフィの特徴
- エスノグラフィの目的
- エスノグラフィを活用した調査方法
- 訪問観察調査
- 日記調査
- エスノグラフィをマーケティングで活用するメリット
- 対象ユーザーの自然な行動を観察できる
- 潜在ニーズを発見できる
- 消費者の動機や行動原理を深掘りできる
- エスノグラフィ調査の基本的な方法
- 1. 調査設計
- 2. 調査対象の選定
- 3. 調査の実施
- 4. 調査結果の共有
- 5.調査結果の集計・分析
- エスノグラフィ調査時の注意点
- 対象ユーザーのプライバシーを守る
- 対象ユーザーの行動を注視する
- 調査結果の考察は思い込みで判断しない
- インタビュー調査との違いと使い分け
- エスノグラフィ調査がおすすめの場合
- インタビュー調査がおすすめの場合
- エスノグラフィ調査の対象ユーザーを探すなら『ユニーリサーチ』
エスノグラフィ(行動観察調査/ethnography)とは
「エスノグラフィ」とは、対象ユーザーと生活様式を共にすることで、ユーザーの行動や言動を直接観察する調査方法です。ユーザーの意識や行動の理由など、数字で表せないものを調査するので定性調査に当たります。
ユーザーと同じ生活様式に身を置くため、アンケートやインタビューでは把握しにくい無意識の行動や会話から、潜在的なニーズを発見しやすいという特徴があります。対象ユーザーをよく観察することで、顧客理解を深めることにもつながります。
▼「定性調査」についてのより詳しい記事はこちら
エスノグラフィと社会学・人類学の関係
エスノグラフィは、人類学や文化人類学で用いられており、もともとはフィールドワークを通して他の文化を知るための方法でした。調査を通して人々の行動を現場で観察し、社会や文化をより深く理解しようというのが、文化人類学におけるエスノグラフィです。
現代ではマーケティングや消費者研究にも応用され、ユーザーの生活実態や消費行動を把握する手法として広く採用されています。
エスノグラフィの特徴
エスノグラフィの特徴は、対象ユーザーを直接観察し、同じ体験をしながら理解できることです。調査者が、対象ユーザーの生活空間や仕事場に帯同し、直接見たこと・感じたことを調査結果とします。数字や統計に頼らず、インタビューやメモを通して、対象ユーザーの感情や思考、行動を具体的に調べることができます。
エスノグラフィの目的
エスノグラフィは顧客理解を目的に行われることが多い調査です。調査中も、対象ユーザーの視点を重視し、この環境下で何を考え、どのような行動をしているかを理解することを目的としています。そのため、状況によって臨機応変に調査方針を変えられる柔軟さも重要です。
エスノグラフィを活用した調査方法
エスノグラフィを活用した調査方法は主に2種類あります。それぞれについて、解説します。
訪問観察調査
「訪問観察調査」は、調査者が対象ユーザーの自宅や職場を訪問して行う調査方法です。対象ユーザーの生活様式に入り込み、行動を共にすることで観察し、さまざまな気付きを得ることができます。
▼イベントレポート:消費者理解を深めるための「訪問調査」の実践方法
日記調査
「日記調査」は、対象ユーザーに日々の行動や感想を記録してもらい、その記録をもとに分析を行う方法です。調査者が直接観察することはできませんが、対象ユーザーが自ら行動を記録するため長期的な調査が可能で、時間経過による行動変化も捉えやすいのが特徴です。近年では、スマートフォンから提出できる調査もあります。
エスノグラフィをマーケティングで活用するメリット
エスノグラフィをマーケティングで活用する「エスノグラフィックマーケティング」の主なメリットを3つご紹介します。
対象ユーザーの自然な行動を観察できる
調査者が対象ユーザーの生活様式に入ることで、アンケートやインタビューでは引き出しにくい、ユーザーの本音や自然な行動を観察できます。特に、長期的に行われるエスノグラフィ調査では、ユーザーとの信頼関係を築きやすい傾向にあります。信頼を得ることで、よりリラックスした状態のユーザーを観察することができ、現実に即したデータを得やすくなります。
潜在ニーズを発見できる
エスノグラフィは、対象ユーザーを調査者が観察する形をとるため、ユーザー自身も気づいていない潜在ニーズの発見に適しています。そうした発見は、製品やサービスの開発に応用することができるため、調査結果から新しいアイディアが生まれる場合もあります。
消費者の動機や行動原理を深掘りできる
エスノグラフィは、対象ユーザーの生活や価値観、文化的な背景を観察しながら深く理解することができるため、純粋なデータ分析では得られない具体的な洞察が得られます。ユーザーが何を考え、その結果どのように行動しているのかを理解するのに適した調査といえるでしょう。
エスノグラフィ調査の基本的な方法
ここからは、実際の調査方法について説明します。
流れとしては
調査設計
対象ユーザーの選定
調査実施
結果の共有
集計・分析
となります。それぞれについて詳しく見てみましょう。
1. 調査設計
まずは、調査設計を行います。調査の目的を具体的に設定し、目的に合った対象ユーザーはどんな人物かを検討します。また、どのようなデータを収集し、どのような分析を行うかを計画します。最終的に必要な時間を計算してスケジュールを確定します。
目的を設定する際には、仮説づくりの材料として事前にアンケート調査や、デスクトップリサーチ(WEB上で公開されている調査レポートなどからの情報収集)を行うのもおすすめです。
2. 調査対象の選定
次に、調査対象となるユーザーを選定します。選定には、専門の調査会社やオンラインサービスを利用する方法や社内メンバーの知人に声をかける方法などがあります。
ただし、知人に対する調査では、バイアスがかかってしまうことがあるため、専門の調査会社やオンラインサービスを利用して募集・選定するほうが公正な調査結果を得やすくなります。しかし、調査費用が高くなるというデメリットもあるため、全体の予算を踏まえて決定しましょう。
3. 調査の実施
いよいよ調査の実施です。実施前の準備として、調査メンバーの動きをまとめた表や、調査票、カメラなど、必要なものを用意しておきましょう。調査を実施する際は、対象ユーザーの自宅や職場に赴き、ユーザーの行動を観察します。必要に応じて音や写真、映像を記録し、気になる行動をした場合は適宜その場で理由を尋ねます。調査中は対象ユーザーの負担にならないように配慮し、行動を強制させることがないようにすることも大切です。
4. 調査結果の共有
得られた調査結果は関係するメンバー内で共有します。気になる行動や会話など、目的を達成するためのヒントになりそうな発見をまとめておくと良いでしょう。
5.調査結果の集計・分析
エスノグラフィで得られた観察データは、単純な数字ではないため、質的な分析のスキルが求められます。
分析方法としては、例えば ・収集した記録を、テーマやカテゴリーで分類し、共通する傾向を見つける ・データ全体から読み取れる行動パターンを見つける ・ほかの対象ユーザーと比較し、共通点や対立する点を見つける
などの方法があります。 得られた分析結果は、グラフなどを用いてまとめ、社内で共有します。共有したデータから、具体的なインサイトを抽出し、製品改善やサービス開発に役立てましょう。
エスノグラフィ調査時の注意点
エスノグラフィ調査を行う際は、以下の点に注意しましょう。
対象ユーザーのプライバシーを守る
エスノグラフィ調査では、対象ユーザーのプライベートな部分に関わるため、プライバシーの保護や倫理的な配慮が必要です。調査の目的や方法を十分に説明し、しっかりと同意を得てから調査を行うようにします。
また、調査中は普段の生活を阻害する行動はなるべく避け、リラックスした状態で臨んでもらえるように心がけましょう。
対象ユーザーの行動を注視する
対象ユーザーがどのような行動、言動をするのかを常に意識しましょう。例えば、ユーザーは商品購入時に自分が求める用途の商品がないとき、別の用途の商品で代用するという場合があります。そうした瞬間をしっかりと観察し、必要に応じて質問をすることで、既存商品の改善や新商品の開発につながるかもしれません。
調査結果の考察は思い込みで判断しない
調査者自身の思い込みが、情報の収集や分析に影響を与える可能性があるため、注意が必要です。思い込みは調査結果の考察でも表れやすく、特定の行動や発言を過剰に一般化しようとしてしまう可能性もあります。対象ユーザー一人ひとりの生活様式や、行動、思考を考慮することが重要です。
インタビュー調査との違いと使い分け
インタビュー調査とエスノグラフィ調査は、どちらも質の高いデータを収集するための定性調査の手法ですが、その方法や目的にはいくつかの違いがあります。得たい情報の種類によってどちらの調査を行うかを決定しましょう。
エスノグラフィ調査がおすすめの場合
・特定の製品・サービスがどのように日常で使われているか、ユーザーの無意識な行動や価値観、背景を含めて把握したいとき、
・特定の文化や環境が行動に与えている影響を調査したいとき
・潜在的なニーズや無意識の行動パターンを発見したい場合
インタビュー調査がおすすめの場合
・あるテーマについて、ユーザーの具体的な意見や考え方を知りたいとき
・製品やサービスに対する具体的な評価や改善点を率直に聞きたいとき
・多くのユーザーを対象に調査を行いたいとき
▼「インタビュー調査」についてのより詳しい記事はこちら
エスノグラフィ調査の対象ユーザーを探すなら『ユニーリサーチ』
国内最大級のインタビュープラットホーム「ユニーリサーチ」では、募集条件や事前設問によるスクリーニングで、調査の目的に合ったユーザーとマッチングすることができます。「ユニーリサーチ Pro」プランでは、オフラインで実施する「ユーザー宅への訪問調査」も依頼可能ですので、エスノグラフィ調査の対象ユーザー募集にも活用いただけます。
従来のコストの10分の1以下で、最短当日のマッチングが可能です。スタートアップ企業や、大企業の新規事業部門など、従来の調査サービスを利用できていなかった顧客層を中心に導入いただいております。2024年9月時点で、登録企業2,230社、累計インタビュー数43,000件を達成しました。