
人間中心設計(HCD)とは?6つの原則や4つのプロセスと手法について解説
現代の製品やサービスは、機能性だけではユーザーに選ばれず、操作性や満足度が成果を左右します。そこで、 ユーザーニーズに沿った、競争力のある製品やサービスを創出するために重要なのが「人間中心設計(HCD)」というアプローチです。人間中心設計では、ユーザーの視点を最優先にし、使いやすく心地よい体験を提供することを目指します。
本記事では、人間中心設計の定義や6つの原則、4つのプロセスを中心に、実践に役立つポイントについて詳しく解説します。
- 人間中心設計とは?
- 人間中心設計の定義
- 人間中心設計が産まれた歴史的背景
- 人間中心設計とユーザーエクスペリエンス(UX)の違い
- ユーザー中心設計(UCD)との違い
- デザイン思考との違い
- 専門家になるための資格がある
- 人間中心設計の6つの原則
- ユーザー、タスク、環境の明確な理解に基づいたデザイン
- デザインと開発全体へのユーザーの参加
- ユーザー中心の評価によるデザインの実施と洗練
- プロセスの繰り返し
- ユーザー体験(UX)全体に取り組むデザイン
- 学際的なスキル・視点を含むデザインチーム
- 人間中心設計の4つのプロセスと手法
- ユーザーの利用状況の把握
- 要件の定義
- 設計
- 要件に対する設計の評価と改善
- 人間中心設計を実施するメリット
- ユーザーにとって使いやすい製品・サービスを提供できる
- 作業効率や組織の生産性を高められる
- アクセシビリティを向上できる
- UX(ユーザー体験)の質を高められる
- 持続可能で信頼されるブランドを構築できる
- 人間中心設計の実施する際のデメリット
- 対象ユーザーの範囲を適切に絞ることが難しい
- ニーズ把握の正確性を判断する基準が不明確
- 一部のユーザーやステークホルダーに偏重するリスクがある
- 創造性やイノベーションが制約される可能性がある
- 継続的なリソース確保や長期的ビジョンの両立が難しい
- 人間中心設計を実施するときのポイント
- 多様な人材でプロジェクトを進める
- ユーザーの潜在的なニーズを的確に把握する
- 人間中心設計はユーザーの声が重要
- 人間中心設計のためにユーザーの声を集めるなら『ユニーリサーチ』
人間中心設計とは?
「人間中心設計(HCD:Human Centered Design)」は、ユーザーを中心に考えた設計のことを指します。現代の製品開発やサービス設計において重要な考え方です。
人間中心設計の定義
人間中心設計は、国際規格「ISO 9241-210」で以下のように定義されています。
「システムの使い方に焦点を当て、人間工学やユーザビリティの知識と技術を適用することにより、インタラクティブシステムをより使いやすくすることを目的とするシステム設計と開発へのアプローチ」
出典:ISO 9241-210:2019 - Ergonomics of human-system interaction
また、同様の内容が日本工業規格「JIS Z 8530」で定義されています。
人間中心設計は、簡単に言えば「ユーザー(人間)にとっての使いやすさ」を重視した設計手法です。
人間中心設計が産まれた歴史的背景
人間中心設計(HCD)の考え方は、20世紀後半の工業デザインやシステム設計の現場で発展しました。当時は技術や機能の高度化が進む一方で、ユーザーが扱いにくい製品や操作ミスが多発するという課題がありました。
こうした背景を受け、「人間の特性や行動を設計の中心に置く」 という発想が生まれ、ユーザビリティや人間工学の知見を取り入れた設計手法として体系化されていきます。1999年には、国際規格「ISO 13407」が初めて制定され、その後2010年に「ISO 9241-210」として改訂・統合されました。これにより、人間中心設計は製品開発やサービス設計における標準的なアプローチとして世界的に認知されるようになりました。
現在では、ソフトウェアやハードウェア、Webサービス、公共デザインなど、幅広い分野でユーザー体験を重視する設計思想として定着しています。
人間中心設計とユーザーエクスペリエンス(UX)の違い
人間中心設計と「ユーザーエクスペリエンス(UX)」は密接に関係していますが、意味する範囲が異なります。
ユーザーエクスペリエンス(UX):ユーザーが商品やサービスを利用する際に得られる、認知・感情・満足度などを含む「全ての体験」
人間中心設計(HCD):良いユーザー体験を作るための「設計プロセス」
つまり、ユーザーエクスペリエンスは「結果としての体験」、人間中心設計は「その体験を作る設計プロセス」と考えると分かりやすいでしょう。
▼「ユーザーエクスペリエンス(UX)」についてのより詳しい記事はこちら

ユーザー中心設計(UCD)との違い
人間中心設計とユーザー中心設計(UCD:User-Centered Design)は、どちらもユーザーを軸にした設計アプローチですが、対象範囲や関係する人の扱いに違いがあります。
ユーザー中心設計(UCD):ユーザーの作業フローやタスクに沿って設計・改善を繰り返し、使いやすさを最適化します。
人間中心設計(HCD):UCDとほぼ同義として使われますが、ISO規格においては「より包括的な概念」として整理された用語です。ユーザーだけでなくステークホルダーや社会の利益も考慮します。
デザイン思考との違い
人間中心設計とデザイン思考はどちらもユーザー重視のアプローチですが、目的とカバー範囲が異なります。
デザイン思考:問題解決やイノベーション創出を目的としたフレームワーク。代表的な流れは「共感→問題定義→発想→プロトタイプ→テスト」。不確実な課題に対して発散と収束を繰り返して方向性を見出します。
人間中心設計(HCD):実装フェーズで製品やサービスを使いやすくするための具体的な設計・評価プロセス。ユーザーの行動や環境を分析し、反復的に改善を行う。
つまり、デザイン思考は「課題解決や発想の枠組み」、人間中心設計は「実際の設計開発プロセス」と位置づけられます。
専門家になるための資格がある
人間中心設計には、「特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構」(HCD-Net)による資格認定制度があります。人間中心設計に関して一定水準の能力がある人を専門家として認定する制度で、以下の2種類があります。
人間中心設計専門家
人間中心設計スペシャリスト
どちらも応募資格として、人間中心設計・ユーザビリティ関連従事者としての実務経験が必要です。
人間中心設計の6つの原則
人間中心設計のアプローチでは、以下の6つの基本的な原則が定められています。
ユーザー、タスク、環境の明確な理解に基づいたデザイン
デザインと開発全体へのユーザーの参加
ユーザー中心の評価によるデザインの実施と洗練
プロセスの繰り返し
ユーザー体験(UX)全体に取り組むデザイン
学際的なスキル・視点を含むデザインチーム
これらの原則を理解し、適切に応用することが、人間中心設計の鍵となります。それぞれの原則について解説します。
ユーザー、タスク、環境の明確な理解に基づいたデザイン
ユーザー、タスク、環境の理解は、設計プロセスの第一歩といえます。ユーザーが製品をどのように使うのか、どのような状況で使用するのかを深く理解することが重要です。
例えば、介護業界で高齢者やその家族が使用する様々な製品では、それぞれの使用環境や身体的・精神的な状態に応じたデザインが不可欠です。実際のユーザーや使用環境への理解があってこそ、ニーズに応じた効果的な製品設計が可能になるのです。
デザインと開発全体へのユーザーの参加
人間中心設計では、ユーザーを設計プロセス全体に巻き込むことが大切です。初期のアイディア出しからプロトタイプテストまで、ユーザーに参加してもらうことで、ユーザーのニーズや期待をより正確に反映できるためです。
ユーザー中心の評価によるデザインの実施と洗練
この原則は、設計されたサービスの評価をユーザー自身に行ってもらい、その評価データをもとに改善を繰り返し、洗練させていく考え方です。
作成したサービスデザインのプロトタイプを実際のターゲットユーザーにテストしてもらい、その感想や評価を開発現場へフィードバックし、意見を取り入れながらPDCAサイクルを回します。
ユーザー視点での改善を単発に留めるのではなく「全ての工程にユーザー目線を取り入れて、ユーザー評価を適宜反映させ続ける」ことが重要になります。
プロセスの繰り返し
人間中心設計のプロセスは何度も反復し、改善を繰り返す必要があります。商品が一度完成したら終わり、ではなく、ユーザーのフィードバックや評価をもとに繰り返し改善を行います。ユーザーによる評価とその結果を取り入れた改善を繰り返すことにより、ユーザーにとってより使いやすい、高品質な製品の実現を目指します。
ユーザー体験(UX)全体に取り組むデザイン
人間中心設計では、ユーザーが商品を使用する際に体験する全体の流れを考慮することが求められます。これには、単に商品を利用する時だけでなく、商品を知る瞬間や比較検討する時、利用中のサポートシステム、アフターケアまでが含まれます。
ユーザーが望むのは、単にタスクを完了できるだけでなく、一貫した満足度ある体験です。そのため、全体のユーザー体験を考慮したデザインが必要です。
▼「ユーザーエクスペリエンス(UX)」についてのより詳しい記事はこちら

学際的なスキル・視点を含むデザインチーム
人間中心設計のプロジェクトチームにはデザイナー、エンジニア、マーケティング、心理学者、ユーザーリサーチャーなど、多様な専門家が参加することが望ましいです。チーム全体の知識や知見を活かして多角的な視点から問題を解決し、より良い設計を目指しましょう。
人間中心設計の4つのプロセスと手法
ここでは、人間中心設計が実際にどのように行われるのかについて、4つの具体的なプロセスと手法を見ていきます。
ユーザーの利用状況の把握
先述の6つの原則の通り、最初のステップはユーザーがどのような状況で製品を利用するのかを徹底的に知ることです。これには、アンケートやインタビュー、観察調査などを行い、ユーザーの利用実態を把握します。
リアルな利用シーンを見極めることは特に重要で、ユーザーが抱える具体的な課題や期待に応えるためのヒントが得られます。この情報を元に、設計における仮説を立て、次のステップへ進むことができます。
要件の定義
先ほどのステップで得られた情報を分析し、ユーザーの求めていることを明確にします。具体的には、ペルソナや、カスタマージャーニー、ユーザーシナリオの作成などが有効です。
▼「ペルソナ」についてのより詳しい記事はこちら

▼「カスタマージャーニーマップ」についてのより詳しい記事はこちら

▼「ユーザーシナリオ」についてのより詳しい記事はこちら

設計
ここから具体的な設計段階に入ります。ユーザーが求めていることを実現するデザインのアイディアを具体化し、プロトタイプを作成します。このプロトタイプは、手書きのアイディアスケッチや、簡単なモックアップから始まり、後にはより完成品に近い精緻なプロトタイプへ進化させていきます。
要件に対する設計の評価と改善
プロトタイプが完成したら、次にその評価を行います。アンケートやユーザビリティテスト、ユーザーインタビューなどを実施し、実際のユーザーからの反応を集めます。
ユーザーからフィードバックを受けた使いづらい点や疑問点を洗い出し、それに基づいて設計を改善します。これらのプロセスを繰り返し行うことで、ユーザーが本当に求めている商品に近づけることが可能になります。
▼「ユーザビリティテスト」についてのより詳しい記事はこちら


人間中心設計を実施するメリット
人間中心設計を実践することで、ユーザーにとって価値の高い製品やサービスを生み出すことができます。人間中心設計は単なるデザイン手法ではなく、ユーザーのニーズや行動を深く理解し、それを設計に反映させるプロセスです。
ここでは、代表的なメリットを5つに分けて解説します。
ユーザーにとって使いやすい製品・サービスを提供できる
人間中心設計を導入する最大のメリットは、ユーザーが直感的に操作でき、迷わず使える製品やサービスを設計できることです。
ユーザーの行動やニーズを分析し、フィードバックを反映させることで、操作のしやすさや理解のしやすさが向上します。結果として、ユーザーの満足度が高まり、ブランドへの信頼も深まります。
作業効率や組織の生産性を高められる
人間中心設計では、ユーザーのタスクや作業環境を詳細に把握し、無駄な手順やエラーを減らす設計を行います。その結果、ユーザーの業務効率が向上するだけでなく、組織全体の生産性向上にもつながります。
また、直感的な操作設計によってトレーニングやマニュアルの負担が軽減され、教育・サポートコストの削減にも寄与します。
アクセシビリティを向上できる
人間中心設計では、年齢・性別・身体的条件・文化的背景などの多様性を前提に設計を行います。そのため、高齢者や障がいのある方など、幅広いユーザーにとって使いやすい製品・サービスを提供できます。
これは利用の公平性を高めるだけでなく、より多くのユーザーにリーチできる可能性を広げる重要なポイントです。
UX(ユーザー体験)の質を高められる
人間中心設計のプロセスでは、ユーザーの感情や満足度にも着目します。ユーザーが使っていて快適だと感じる設計は、単に「使える」から「使いたい」と思われる体験へと進化させます。
このようにUXを向上させることで、ユーザーのロイヤリティやブランド好感度を高め、継続的な利用や口コミ拡散にもつながります。
持続可能で信頼されるブランドを構築できる
人間中心設計を実践することは、長期的に信頼されるブランドづくりにも貢献します。使いやすく、長く利用できる設計は、廃棄や再設計の頻度を減らし、環境負荷を抑えるサステナブルな取り組みにもつながります。
さらに、ユーザー満足度の向上は企業価値を高め、他社との差別化要因として機能します。
人間中心設計の実施する際のデメリット
人間中心設計には多くのメリットがありますが、実際に導入・運用する際にはいくつかの注意点や課題も存在します。特に、ユーザー調査や継続的な検証を必要とする性質上、時間・コスト・創造性などのバランスを取ることが重要です。
ここでは、代表的なデメリットを5つに分けて解説します。
対象ユーザーの範囲を適切に絞ることが難しい
人間中心設計では、ユーザー全体の行動やニーズを幅広く把握することが求められます。しかし、すべてのユーザーを満たす設計を目指すと、焦点がぼやけてしまい、どの層を最優先するかの判断が難しくなります。
特にユーザー層が多様な製品・サービスでは、リソースが分散し、成果が見えにくくなる場合があります。
ニーズ把握の正確性を判断する基準が不明確
ユーザー調査やインタビューを実施しても、その結果が「本当に正しいニーズの反映」かどうかを判断する明確な基準は存在しません。
得られたデータの解釈は担当者の経験や分析力に依存するため、誤った方向に設計を進めてしまうリスクがあります。また、ユーザー自身が自覚していない「潜在ニーズ」をどう捉えるかも大きな課題です。
一部のユーザーやステークホルダーに偏重するリスクがある
人間中心設計ではユーザーの声を重視しますが、特定のユーザー層や顧客の意見に偏ると、他の潜在的ユーザーのニーズを見落とす可能性があります。
また、組織内のステークホルダー(経営層・営業・開発など)との利害調整が不十分な場合、設計方針が偏り、全体最適を損ねることもあります。
創造性やイノベーションが制約される可能性がある
ユーザーの声を重視しすぎることで、既存の枠組みから抜け出せず、革新的なアイデアが生まれにくくなることがあります。特に、ユーザーが「自分が欲しい」と明確に言語化できる範囲に設計を限定すると、デザインの独自性や差別化が損なわれる場合があります。
人間中心設計を実践する際は、ユーザーニーズと創造的発想のバランスを取ることが重要です。
継続的なリソース確保や長期的ビジョンの両立が難しい
人間中心設計は、ユーザー行動の変化や市場動向を継続的に追跡し、設計を更新し続けることが前提です。そのため、人材・時間・コストなどのリソースが常に必要になります。
また、ユーザーの声を重視しすぎると、企業の長期的ビジョンや事業戦略との整合性を保つのが難しくなることもあります。
人間中心設計を実施するときのポイント
人間中心設計を効果的に実施するには、ただ手順を踏むだけではなく、設計の質を高めるためのポイントを押さえることが重要です。
ここでは、特に意識したい2つのポイントを解説します。
多様な人材でプロジェクトを進める
人間中心設計は、多角的な視点を取り入れることで精度の高い設計が可能になります。そのため、デザイナーだけでなく、開発者、マーケター、業務担当者など、多様なバックグラウンドを持つチームでプロジェクトを進めることが効果的です。
異なる視点が加わることで、偏りのない設計やユーザー体験の最適化につながります。
ユーザーの潜在的なニーズを的確に把握する
人間中心設計では、ユーザー自身が自覚していない潜在的なニーズまで把握することが成功の鍵です。
インタビューや観察、アンケートなどの調査手法を組み合わせ、表面的な要求だけでなく、行動や環境から見えてくる本質的な課題を抽出することが重要です。これにより、ユーザーが気づいていない改善点や新しい価値を設計に反映できます。
人間中心設計はユーザーの声が重要
人間中心設計においては、ユーザーの声が最も重要です。プロセスの各段階で得られるフィードバックは、単なる情報収集ではなく、実際の設計の質を左右する重要な指標です。ユーザーの意見や感想をしっかりと受け止め、次のアクションに繋げることが成功の鍵となります。
ユーザーの声を設計に反映させるための具体的なアプローチはいくつかあります。例えば、定期的なユーザーテストです。ユーザーに実際に製品を使用してもらい、そのフィードバックをもとに設計の改良を行います。ユーザーの意見を集約するためのオンラインフォーラムやアンケートを通じて、より多くの意見を集めることも有効でしょう。
企業側は、こうしたユーザーの声を取り入れることで、市場での競争力も高められます。製品を市場に出した後も、ユーザーの意見や使用経験について継続的な情報収集を行うことで、次の開発や改善に活かすことができるでしょう。
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