
人間中心設計(HCD)とは?4つのプロセスや手法、6つの原則について解説
ユーザーニーズに沿った、競争力のある製品やサービスを創出するために重要なのが「人間中心設計(HCD)」というアプローチです。人間中心設計では、ユーザーの視点を最優先にし、使いやすく心地よい体験を提供することを目指します。
本記事では、人間中心設計の定義や6つの原則、実践プロセスについて詳しく解説します。
人間中心設計とは?
「人間中心設計(HCD:Human Centered Design)」は、ユーザーを中心に考えた設計のことを指します。現代の製品開発やサービス設計において重要な理念です。
人間中心設計の定義
人間中心設計は、国際規格「ISO9241-210」で以下のように定義されています。
「システムの使い方に焦点を当て、人間工学やユーザビリティの知識と技術を適用することにより、インタラクティブシステムをより使いやすくすることを目的とするシステム設計と開発へのアプローチ」
出典:ISO 9241-210:2019 - Ergonomics of human-system interaction
また、同様の内容が日本工業規格「JIS Z 8530」で定義されています。
人間中心設計は、簡単に言えば「ユーザー(人間)にとっての使いやすさ」を重視した設計手法です。
人間中心設計とユーザーエクスペリエンス(UX)の違い
人間中心設計と「ユーザーエクスペリエンス(UX)」は密接に関係していますが、別のものです。「ユーザーエクスペリエンス(UX)」は、ユーザーが商品やサービスを利用する際に得られる全ての体験を指す一方で、「人間中心設計」は、良いユーザー体験を作るための設計プロセスを指します。
▼「ユーザーエクスペリエンス(UX)」についてのより詳しい記事はこちら

専門家になるための資格がある
人間中心設計には、「特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構」(HCD-Net)による資格認定制度があります。人間中心設計に関して一定水準の能力がある人を専門家として認定する制度で、以下の2種類があります。
人間中心設計専門家
人間中心設計スペシャリスト
どちらも応募資格として、人間中心設計・ユーザビリティ関連従事者としての実務経験が必要です。
人間中心設計の6つの原則
人間中心設計のアプローチでは、以下の6つの基本的な原則が定められています。
ユーザー、タスク、環境の明確な理解に基づいたデザイン
デザインと開発全体へのユーザーの参加
ユーザー中心の評価によるデザインの実施と洗練
プロセスの繰り返し
ユーザー体験(UX)全体に取り組むデザイン
学際的なスキル・視点を含むデザインチーム
これらの原則を理解し、適切に応用することが、人間中心設計の鍵となります。それぞれの原則について解説します。
ユーザー、タスク、環境の明確な理解に基づいたデザイン
ユーザー、タスク、環境の理解は、設計プロセスの第一歩といえます。ユーザーが製品をどのように使うのか、どのような状況で使用するのかを深く理解することが重要です。
例えば、介護業界で高齢者やその家族が使用する様々な製品では、それぞれの使用環境や身体的・精神的な状態に応じたデザインが不可欠です。実際のユーザーや使用環境への理解があってこそ、ニーズに応じた効果的な製品設計が可能になるのです。
デザインと開発全体へのユーザーの参加
人間中心設計では、ユーザーを設計プロセス全体に巻き込むことが大切です。初期のアイディア出しからプロトタイプテストまで、ユーザーに参加してもらうことで、ユーザーのニーズや期待をより正確に反映できるためです。
ユーザー中心の評価によるデザインの実施と洗練
この原則は、設計されたサービスの評価をユーザー自身に行ってもらい、その評価データをもとに改善を繰り返し、洗練させていく考え方です。
作成したサービスデザインのプロトタイプを実際のターゲットユーザーにテストしてもらい、その感想や評価を開発現場へフィードバックし、意見を取り入れながらPDCAサイクルを回します。
ユーザー視点での改善を単発に留めるのではなく「全ての工程にユーザー目線を取り入れて、ユーザー評価を適宜反映させ続ける」ことが重要になります。
プロセスの繰り返し
人間中心設計のプロセスは何度も反復し、改善を繰り返す必要があります。商品が一度完成したら終わり、ではなく、ユーザーのフィードバックや評価をもとに繰り返し改善を行います。ユーザーによる評価とその結果を取り入れた改善を繰り返すことにより、ユーザーにとってより使いやすい、高品質な製品の実現を目指します。
ユーザー体験(UX)全体に取り組むデザイン
人間中心設計では、ユーザーが商品を使用する際に体験する全体の流れを考慮することが求められます。これには、単に商品を利用する時だけでなく、商品を知る瞬間や比較検討する時、利用中のサポートシステム、アフターケアまでが含まれます。
ユーザーが望むのは、単にタスクを完了できるだけでなく、一貫した満足度ある体験です。そのため、全体のユーザー体験を考慮したデザインが必要です。
▼「ユーザーエクスペリエンス(UX)」についてのより詳しい記事はこちら

学際的なスキル・視点を含むデザインチーム
人間中心設計のプロジェクトチームにはデザイナー、エンジニア、マーケティング、心理学者、ユーザーリサーチャーなど、多様な専門家が参加することが望ましいです。チーム全体の知識や知見を活かして多角的な視点から問題を解決し、より良い設計を目指しましょう。
人間中心設計の4つのプロセスと手法
ここでは、人間中心設計が実際にどのように行われるのかについて、4つの具体的なプロセスと手法を見ていきます。
ユーザーの利用状況の把握
先述の6つの原則の通り、最初のステップはユーザーがどのような状況で製品を利用するのかを徹底的に知ることです。これには、アンケートやインタビュー、観察調査などを行い、ユーザーの利用実態を把握します。
リアルな利用シーンを見極めることは特に重要で、ユーザーが抱える具体的な課題や期待に応えるためのヒントが得られます。この情報を元に、設計における仮説を立て、次のステップへ進むことができます。
要件の定義
先ほどのステップで得られた情報を分析し、ユーザーの求めていることを明確にします。具体的には、ペルソナや、カスタマージャーニー、ユーザーシナリオの作成などが有効です。
▼「ペルソナ」についてのより詳しい記事はこちら

▼「カスタマージャーニーマップ」についてのより詳しい記事はこちら

▼「ユーザーシナリオ」についてのより詳しい記事はこちら

設計
ここから具体的な設計段階に入ります。ユーザーが求めていることを実現するデザインのアイディアを具体化し、プロトタイプを作成します。このプロトタイプは、手書きのアイディアスケッチや、簡単なモックアップから始まり、後にはより完成品に近い精緻なプロトタイプへ進化させていきます。
要件に対する設計の評価と改善
プロトタイプが完成したら、次にその評価を行います。アンケートやユーザビリティテスト、ユーザーインタビューなどを実施し、実際のユーザーからの反応を集めます。
ユーザーからフィードバックを受けた使いづらい点や疑問点を洗い出し、それに基づいて設計を改善します。これらのプロセスを繰り返し行うことで、ユーザーが本当に求めている商品に近づけることが可能になります。
▼「ユーザビリティテスト」についてのより詳しい記事はこちら

人間中心設計はユーザーの声が重要
人間中心設計においては、ユーザーの声が最も重要です。プロセスの各段階で得られるフィードバックは、単なる情報収集ではなく、実際の設計の質を左右する重要な指標です。ユーザーの意見や感想をしっかりと受け止め、次のアクションに繋げることが成功の鍵となります。
ユーザーの声を設計に反映させるための具体的なアプローチはいくつかあります。例えば、定期的なユーザーテストです。ユーザーに実際に製品を使用してもらい、そのフィードバックをもとに設計の改良を行います。ユーザーの意見を集約するためのオンラインフォーラムやアンケートを通じて、より多くの意見を集めることも有効でしょう。
企業側は、こうしたユーザーの声を取り入れることで、市場での競争力も高められます。製品を市場に出した後も、ユーザーの意見や使用経験について継続的な情報収集を行うことで、次の開発や改善に活かすことができるでしょう。
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